黒猫のワルツ

両脇に抱えて走るんですよ

 

皆様こんにちは

LUKAでございます

 

 

先日

いつものように会社で仕事をしていた時の事

 

 

御年80歳になろうという会長が現れた

 

 

会長「ルカさん」

 

私「はい!」

 

会長「あぁ~あんたはいつも良い返事だぁ~

   ちょっと頼まれてくれないかい」

 

私「はい!なんなりと!」

 

会長「ちょっと離れに行って

   常務呼んで来てくれないかい」

 

 

離れ

とは

常務の為に用意された

完全バリアフリーの建物である

 

社屋と隣接して建てられており

床暖完備!

冷房完備!

とにかくありとあらゆる物が整った

大層立派な・・・一軒家

 

 

以前謎の若者カップルが

玄関で盛大に痴話げんかをしていた現場でもある

 

 

そこに居る常務は

過去

仕事中の事故で左半身に麻痺が残ってしまい

一歩歩くだけでも大層時間がかかるし

左側から話しかけてもほぼ聞こえていない

 

年齢は70代前半

 

現在は週に二度だけ

奥さんに車で送って貰ってその離れにやってきて

・・・何をしているのかは分からないけれど

何かしているらしい

 

 

その常務を呼んで欲しいらしい

 

 

会長「俺だとあそこまで行くのに

   階段降りるのだけでもゆるくないから・・・」

 

 

でしょうね!!!?

 

会長は普段ほとんど会社に出社する事はなく

所有している広大な土地で農園をやっている

 

ただ

本人はそりゃーもう足腰が弱っていて

もっぱらその農園で働いているのは

雇っているパートのおばちゃんたちである

 

 

私「かしこまりました!

  事務所へお連れすればよろしいですか?」

 

会長「いや

   そこの駐車場まで出てきてもらって

   俺もちょっと時間かかるけど行くから」

 

 

そうだよな・・・

 

爺さんここから駐車場へ行くまでに

階段を2つ降りなきゃならんもんな・・・

 

そりゃぁ時間かかるでしょうよ・・・

 

 

じゃあぱぱっと走って駐車場へお連れしておきますね!

 

 

タタターッと走って離れへ行った私

 

外は小雨が降っている

 

 

私「お疲れ様でーす!!!

  ルカでーーーーす!!!」

 

常務「・・・・・・・・・・・・?(キョロキョロ)」

 

 

どうやら

私の位置が常務の左側だったらしく

かすかに何かが聞こえた

みたいになっているっぽい

 

 

私「ルーーカでーーーーっす!!!!!」

 

常務「あらルカさん

   お疲れお疲れ

   こんな所までどうしたの?」

 

 

すかさず

常務の右側へ回り込む私

 

 

私「お疲れ様です!

  会長が駐車場に来て欲しいと!」

 

常務「駐車場に・・・?

   僕に一体何の用だろう・・・」

 

私「肩をお貸しします!」

 

常務「あぁいやいや・・・

   いつもありがとうありがとう・・・」

 

 

常務は

この離れでの仕事を終えると

必ず一度事務所へ顔を出す

 

ただ

 

事務所に辿り着く為には

私ですらちょっとビビる急な階段があるのだ

 

しかも所々穴が開いて下が見えている

 

 

階段を上って来る時は

私が気付かない間に上って来ているから手を貸せないんだけれど

降りる時だけは可能な限り手を貸すようにしている

 

落ちてケガでもしたら大変!

 

 

玄関までゆっくり付き添って案内し

玄関先で傘を広げて待つ私

 

 

私「雨が降っているので

  傘をさしておりますね

  濡れないようにしっかりと入ってください」

 

常務「ありがとうありがとう

   ありがとうありがとう」

 

 

こんなに温厚で優しい常務だけれど

昔は鬼のように恐ろしい人だったんだとか・・・

 

今は可愛いお爺ちゃん・・・

 

 

駐車場へ辿り着いたが

まだそこには会長の姿が見えない

 

 

ま・・・まさか

 

会長も介助してあげないとならないのでは・・・!?

 

 

私「・・・・・・・あっあの

  傘を持っていて頂けますか?

  心配なので少し様子を見てまいります・・・!」

 

常務「いやいやルカさんが濡れちゃうから・・・」

 

私「私は頑丈なので大丈夫です!

  はい!どうぞ!」

 

 

傘を無理矢理渡して

会長の自宅の玄関にそびえたつ階段を駆け上がる私

 

 

いや

 

私から見たらこんな階段

1段飛ばしで駆け上がっていけるものなんだけれど

80歳ともなると『そびえたつ階段』に他ならないよね・・・!

 

 

私「会長!!

  大丈夫ですか!?

  お手伝いします!」

 

会長「あぁはいはい・・・

   えぁっ!?ルカさんあんたもう来たの!?

   早いねぇあんた・・・!」

 

 

若いからね・・・

 

 

今度は会長の身体をがっしり支えながら

一歩ずつゆっくり階段を下りる私

 

 

会長「あぁ~あんた上手だねぇ

   普通だったら怖くて掴まれないよ人になんて」

 

私「そうですか!

  歩きやすいならよかったです!」

 

会長「こう・・・がっしりしてるねぇ・・・

   ほんとがっしり・・・がっ・・・

   あんたなんか運動やってんの!!?」

 

私「・・・・・・・・・・」

 

 

肩の筋肉の事言ってんの?

 

だとしたらうるせぇわ!!!

 

「美術と山を少々」だよ!!!

 

 

常務「会長お呼びですか?」

 

会長「あぁん!!?」

 

常務「えぁ!?」

 

 

やべぇ・・・!

 

どっちも耳がまともに聞こえていない・・・!

 

 

会長「あのねぇちょっと手伝って欲しいんだけど!」

 

常務「はいぃ!!!?」

 

会長「ちょっとそこの車庫にね!

   タイヤあるからさぁ!?」

 

常務「・・・・・はいぃ!!!?」

 

 

いやちょっと勘弁してよ!

コントじゃねぇんだぞ!!

 

全っ然お互い聞こえてないじゃん!!!

 

 

しゃがれたお年寄りの声って

こんなにも相手(お年寄り)の耳に聞こえにくいものだなんて・・・!

 

爺さん同士の会話ってカオス!!!

 

 

 

思わず笑いが堪えきれなくなり

そっと斜め右下を見る私

 

 

会長「明日雪だっていうからさぁ!

   俺の車のタイヤ交換しに行きたいのよ!」

 

常務「・・・・・・・・・・・・」

 

 

聞き返す事を諦めやがった

 

 

会長「ちょっとタイヤ運ぶの手伝って!」

 

 

会長が

車庫の方へ向かって歩いて行く

 

 

常務「ルカさん」

 

私「はい!」

 

常務「内緒だよ

   全然聞こえなかったんだけど

   なんて言ってたの?」

 

 

常務の右側に回り込み

会長には聞こえない声の大きさで説明する私

 

 

私「明日雪だから

  自分の車のタイヤ交換に行きたい

  タイヤ運ぶの手伝っ・・・・・・・

  タイヤ!!!!!!!!?

 

 

え!!!?

 

「タイヤ運ぶの手伝って」って!!!!?

 

 

常務「え?」

 

私「ちょ・・・え!!!?

  まっ・・・

  か、会長!!!?

  お二人でタイヤ運ぶんですか!!?」

 

 

慌てて会長の所へ走って行く私

 

 

え!!!?

 

嘘でしょ!!!!?

 

 

会長「あのさぁー・・・あの上にあるのが

   俺のタイヤなのよ

   俺だと背が届かないから

   常務だと届くでしょ」

 

 

確かに

会長の身長は私よりも低い

 

というか腰が曲がって私よりも低くなっている

 

 

あぁ・・・常務は・・・

背は高い・・・から・・・ね・・・???

はぁ???

 

 

私「いや・・・!

  あの・・・それなら私がお手伝いした方がよろしいかと!?」

 

会長「なぁにを言ってるのあんた!

   こんなのは女性がやるような仕事じゃないから・・・!

   もう大丈夫!

   事務所に戻っていいよ」

 

 

だいじょばねぇよ・・・!

 

 

なんで来年には80歳迎える腰の曲がった爺さんと

半身麻痺が残る70歳過ぎの爺さんで

高い所に積み上げられたタイヤ降ろして車まで運ぶ

って発想になるんだ・・・!

 

死人が出るぞ!!!!!

 

 

常務「・・・・・・僕は何すればいいの?」

 

会長「常務!!!

   あれ!

   あれ降ろして!!!」

 

常務「・・・・・・・え!?

   タイヤ!!!?」

 

会長「タイヤ運ぶから!!!

   俺だと手ぇ届かねぇのよ!!!」

 

常務「は・・・はぁぁぁぁ・・・・・

   えっこれを・・・僕が・・・あぁ・・・???」

 

 

事件だ!!!

 

事件が起きるぞこれは・・・!

 

タイヤに押し潰されて死亡している爺さん2人の遺体が発見されるやつだ!

 

 

何度も何度も

「私が!」

と言っても私を振り払う爺さん2人

 

この会社の人たち

こういう所徹底してんだよなぁ!!?

 

「女性は力仕事するもんじゃない!」

みたいなその思考って素敵だけれど

あんたたちに心配されるほどヤワじゃねぇって言うか

現在のあんたたちほどヤワな生き物おらんで!!?

 

年齢を考えろ年齢を!

変なプライドを持つんじゃない!

そのプライドが物理的にお前を殺すぞ!

 

 

5分ほど

その場を離れられずに見つめていた私

 

 

常務が右手だけで

どうにかタイヤを引っ張り

会長がそれをキャッチする作戦らしいが

 

積み上げられたタイヤがぐらつき

タイヤが今にも落下しそうな危険な空気が漂うばかりで

全く話が進まない

 

 

・・・・・・・・まぁ

 

そりゃーそうだよね・・・

 

 

傘を畳んだ私

 

 

そっと傘を車庫の前に立て掛け

腕まくりをした

 

 

スタスタと歩いて行って

車庫内にあった重たい工具箱を持って行ってタイヤの前に置き

 

その上に立った

 

必死に手を伸ばす

 

あぁ私の身長が後10cm高ければ・・・!

 

 

常務「え!?」

 

会長「あ!?」

 

私「んーーーーよい・・・」

 

 

一気にタイヤを引きずり下ろした

 

 

私「しょ」

 

 

落ちてきたタイヤをがっしりキャッチした私は

 

それを軽々と持ち上げて

会長の車の所まで走って持って行き

 

ドアに鍵がかかっている事に気付いて

走って車庫に戻った

 

 

会長「あんた力あんなぁ!!!?」

 

常務「あらららぁ・・・・・・」

 

私「車の鍵をお借りしても!?」

 

会長「あぁ・・・えっと・・・

   あったあったこれだ!」

 

私「後部座席に積めばよろしいですか!?」

 

会長「あ・・・あぁ・・・」

 

 

走って車へ行き

ドアを開けてタイヤを積み込み

再び走って車庫へ戻り

次は背伸びで積み上げられたタイヤを引っ張り

キャッチしたタイヤを持って車へダッシュ

 

あっという間に4本のタイヤを

車に積み込んだ

 

 

私「これでおっけーですかね!

  戻ったら呼んでください!

  夏タイヤここに積み直せばいいんですよね!」

 

会長「あ・・・あぁ・・・うん」

 

私「じゃあ雨も降っておりますので運転どうぞお気を付けて!

  で・・・常務!

  中まで手をお貸しいたします!」

 

常務「あ・・・あぁ・・・」

 

 

全くもー!

最初から私に頼んでくれればよかったのにさー!

 

 

この日の帰り

 

事務所へ顔を出した常務は

私の席へきて

嬉々とした顔でこう言った

 

 

常務「女性にこんな事言ったらあれだけど

   スーパーマンみたいだったよ!

   スーパーマンみたいでかっこよかったよ!」

 

 

スーパーウーマンってやつも居たんですけど

スーパーマンなんですね・・・

 

 

そして

無事タイヤ交換を終えて帰ってきた会長の

履き替えた夏タイヤを車庫へ積み上げた私

 

 

会長「あんた・・・

   男も顔負けだわぁそれ・・・!

   よくまぁそんなに高くタイヤ持ち上げられるって・・・!

   大したもんだぁ!!!

   現場に欲しいなぁあんた!!!」

 

私「・・・・・・・・・・(にっこり)」

 

 

自分の車のタイヤを交換する際

 

実家に預けてあるタイヤを

地下室から車まで

 

 

一気にタイヤ2つずつ持って運ぶって事は

内緒にしておこう・・・・・・・・・!!!!!