黒猫のワルツ

とりあえず孫にしてくれ ~その1~

 

皆様こんにちは

LUKAでございます

 

 

私が働いている会社には

『何でも屋』のお爺ちゃんが居る

 

 

以前にもちょっと記事にしたけれど

このお爺ちゃんは本当に何だってやっちゃう

 

 

立場的には『会長の弟』というポジションらしいんだけれど

何というか・・・

 

家族経営のこの会社の中で

何でも屋のお爺ちゃんだけがちょっと異質である

 

 

異質というと聞こえが悪いんだけれど

私から見ると

 

『唯一まとも』

 

 

何を隠そうこの私

この『何でも屋』のお爺ちゃんの事が

社内で一番大好き

 

 

お爺ちゃんは

・ダサい作業服なんて着ねぇ!

 俺ぁ若者風のイケてる作業服を着崩して着るんだよ!(ロック!)

・修理室では煙草を吸いながら

 ブルーハーツをCDプレイヤーで流して作業(ロック!)

・俺じゃなくても出来る事なら俺はやらねぇ!

 俺にしか出来ねぇ事で困ってる奴の為に働くんだよ!(かっこいい・・・)

・口癖は「あぁ!?訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇぞ!」(私にも言って!)

・余計な事は喋らねぇ!(基本超無口!)

・後継なんか育てねぇ!覚えてぇなら見て盗め!(職人気質!)

・酒焼けでいつだって声がガラガラ!(そこも良い!)

・修理室にある扇風機はその辺にあった廃材を使って自分で作った

 髪の毛抜けて飛んでいきそうなとんでも風力の扇風機だ!(ファンキー!)

・昼休みには家庭菜園で作っているなすびをじーーーーっと眺める(可愛い・・・)

 

 

こんな具合で

 

まぁ・・・偏屈なんでしょうね・・・!

 

偏屈なんだけれど

何というか・・・この一家の中では相当にまともな部類だ

 

そのくらいに

他の一族が常軌を逸している

 

 

この『何でも屋』のお爺ちゃんの事を

私は心の中でひっそりと『じっちゃん』と呼んでいる

 

実際に「じっちゃん!」と呼んだら

きっとびっくりするんだろうなぁ・・・

 

 

幼い頃から祖父母が居なかった私は

とにもかくにもお年寄りが大好きで

特にこのじっちゃんには

私のお爺ちゃんになって貰いたいと心底思っているくらいだ

 

 

入社して1か月以上が経過した辺りで

 

私はこのじっちゃんと

10年以上前に会った事がある事を思い出した

 

 

あれは私が初めての一人暮らしを始めた時の事

 

 

引っ越し先に荷物を自力で運び込み

電気やらガスやら水道の開通やら何やらを進め

たくさんの作業員さんが出入りしていたが

自宅に設置されている機器の説明にやってきた人が

まさにこのじっちゃんだったのだ

 

 

じっちゃん「一人で暮らすの」

 

私「はい!初めての一人暮らしです!」

 

じっちゃん「どっか遠い所から来たのかい」

 

私「いえ!車で15分くらいの所なんですけど・・・!」

 

じっちゃん「へぇー・・・それなのに一人暮らしすんの」

 

私「・・・・・・・・・はい」

 

じっちゃん「そうかぁーまぁ色々あるやな

     ・・・初めての一人暮らしかぁ・・・

     じゃーまぁーあれだ

     給湯器あるだろ」

 

私「はい」

 

じっちゃん「夏と冬でこまめに温度変えた方がいいよ」

 

私「はぁ」

 

じっちゃん「夏は設定温度下げて冬は設定温度上げる

      設定温度高いままで水足して使うより節約できっから」

 

私「へぇぇぇーーー!」

 

じっちゃん「後はあれだ

      ここ1階だから戸締りと

      暑くても窓開けっ放しで出かけないように

      親御さん心配すんだろ」

 

私「はい!!!」

 

 

こういうやり取りをした

 

 

顔を覚えている訳ではなかったけれど

こんなにも親切な人が居るもんなのか

と思って非常に印象に残っており

 

今の会社へ入社して何度かじっちゃんと会話をしているうちに

「あれ・・・この人あの時の人だ・・・!」と思い出したのだ

 

 

口が悪くて不愛想

だけど本当はとっても優しいじっちゃん

 

社内では浮いているし

怖がられたり嫌われたりしているけれど

私はこのじっちゃんが大好き

 

 

そして

 

じっちゃんが何してるのか気になるーーー!!!

 

 

という訳で

入社から2か月ほど経った辺りで

仕事帰りにチラッと修理室の方を覗いて

電気がついているのを確認した私は

 

じっちゃんに声をかけた

 

 

私「見てても良いですか?」

 

じっちゃん「あぁ???

      こんなもん見ててどーすんだ・・・」

 

 

修理室の中はオイルのにおいが充満していて

物っ凄く汚い

そこかしこに工具やら部材が所狭しと並べられており

ボロボロの雑巾が天井から吊り下げられたロープに乱雑に干されている

 

 

私「邪魔にならない所に居ますので」

 

じっちゃん「・・・・・・・まー・・・好きにしな」

 

 

じっちゃんの斜め後ろで

じっちゃんが何をしているのかを見つめる

 

 

 

楽しい・・・

 

 

大好きだった美術室と似た匂いの中

誰かが集中して何かを作ったり修理しているのを見ているのは

とにもかくにも楽しい

 

一緒になって時間を忘れてしまう

 

 

これを何度か繰り返しているうちに

私にはいつの間にか『無許可での修理室への立ち入り』が許可された

 

 

仕事が終わった後にたまに

余計な事はしないように軽く掃除をしてから帰る

 

 

じっちゃん気付いてくれるかなぁー!

 

 

じっちゃんには今現在

後継とする予定でつけた若い男の子が一人ついている

 

だけど

じっちゃんの『見て盗め!』という性質を理解していないのか

質問をして返事をしてもらえなかったら

スマホで調べて自分でやろうとして失敗!

なんて事が多発

 

こんな事が何度も何度もあったらしく

「この人には人材育成は不可能」と言われているらしい

 

 

・・・が

 

 

じっちゃんは意外にも

色々と教えてくれる

 

 

じーっと見つめている事が大事だったんだと思う

 

 

寿司屋の板さんもそうだったけれど

最初はとにかく見ている事が重要だった

 

見て

どうしてそうしているのか考えて

自分でやってみる

 

何故うまくいかないのか

また見て考える

 

 

これが無かったから教えなかった気がする

 

 

私「じーーーーーーーっ」

 

じっちゃん「これさぁー普通はこっち側に飛び出してんだよ」

 

私「じーーーーーーーっ」

 

じっちゃん「だけどこれすげー珍しいんだけど

      ここへこんでんじゃん

      だから特殊な工具ねぇと回せねぇの」

 

私「じーーーーーーーっ」

 

じっちゃん「したけどこんな珍しいもんの為に

      わざわざ二度と使わねぇかもしんねぇ工具買えねぇわな」

 

私「じーーーーーーーっ」

 

じっちゃん「そういう時は・・・これでなぁ

      こうやって工夫すれば・・・・・・・・ふんっ!

      ほれ!回ったべ?」

 

私「おぉぉーーーー!」

 

 

 

じっちゃん「これちょっと見てみ」

 

私「・・・・・・・・・・」

 

じっちゃん「こことここが繋がってんのな

      だけどここ錆ついてるべ」

 

私「じーーーーーーーっ」

 

じっちゃん「そのせいでこっち側に影響出て

      ここからこういう事が起きんのよ

      だからここだけ直しても後でまた同じ事起きる

      こういう場合はここから全部直してやんねぇと」

 

私「はい!」

 

 

じっちゃんの手はまるで魔法みたいに

あらゆる物を直していく

 

 

思い出の詰まったラジカセ

 

思い出の詰まった古いテレビ

 

思い出の詰まったオルガン

 

思い出の詰ま・・・ってはいないストーブ

 

 

どれもじっちゃんの手にかかれば

不調だった事なんて嘘みたいに直って

あっという間に困っていた人の手元に戻って行く

 

 

そしてじっちゃんは

とっても優しい人だから

文句を言いながらもスーパーマンのようにどこへでも飛んでいく

 

 

じっちゃん「今日は忙しいな・・・!

      なんだってこんなに次から次へと・・・」

 

 

ピリリリリッ

 

ピリリリリッ

 

 

じっちゃんの携帯電話が鳴る

 

 

じっちゃん「あい!あぁーどうもどうも・・・

      え?あぁ?あーそー・・・

      なに・・・あぁ・・・いや今日は時間無いからねぇ・・・

      あぁ!!!?

      なんだそれ・・・いやぁ・・・参ったね

      何時なのそれは・・・

      あー・・・はいはい分かりましたよ

      したらあれだ・・・!

      今から行くから!」

 

 

電話を終えたじっちゃんは

眉間にシワを寄せる

 

 

じっちゃん「ったく困ったもんだよ年寄りは・・・!」

 

 

それよく言ってるけど

じっちゃんも大層なお年寄りですよ

 

70歳過ぎたじっちゃんが

何歳の人を『年寄り呼ばわり』しているのか知りたい・・・

 

 

じっちゃん「〇〇町の婆さん

      テレビつかなくなったから直してくれって・・・ 

      時間ねぇって言ってんのに

      韓国ドラマ見たいのあるから早く来てくれって・・・!

      なんだよそれ・・・!」

 

私「むはっ!」

 

じっちゃん「仕方ねぇから行ってくるわ!」

 

私「じゃあじゃあ後片付けやって

  電気消しておきますね!」

 

じっちゃん「あー助かるわ

      ご苦労さん!」

 

 

じっちゃん・・・

 

 

多分その韓国ドラマ

 

うちの親父が毎週土曜に夢中で見てるやつじゃないかな・・・

 

 

 

後20分くらいで始まるけど

〇〇町まで片道15分だよ・・・!!!?

 

 

それでも諦めずに小走りで出て行くじっちゃん・・・

 

 

うぉおお好きぃぃーーーーー!!!